週刊ラグドールラグドールは可愛いのか? 特別号

2026年9月25日発行 第1号定価:のびしろ

検証

【検証】ラグドールは液体なのか

2026年9月25日・週刊ラグドール取材班

床に、ラグドールがこぼれていた。拭こうとしたら目が合った。液体ではなかった。いや、本当にそうだろうか。取材班はモップを置いて、調査を始めた。

ウワサ

「猫は液体」はネット界の古典ミームだ。瓶や洗面器や鍋にぴったり収まった猫の写真に「容器の形になる=液体」とツッコミを入れる、あれである。

ラグドールはこの分野の強豪で、床やベランダにべたーっと広がった姿が「溶けてる」「こぼれてる」と話題になる。体重8.3kgのラグドールが暑い日にベランダで溶けていた写真は、BuzzFeed Japanでも記事になった(BuzzFeed Japanの記事)。記事では、リラックスして力が抜けているか、熱を逃がすために体を広げているのでは、という飼い主さんの見立ても紹介されている。

取材班が調べた

「猫は液体か」を本気で論じた物理学者がいる

これは実話だ。フランスのリヨン高等師範学校(ENS de Lyon)の物理学者マルク=アントワーヌ・ファルダンさんが、2014年に「猫のレオロジーについて」という論文を学会の会報に書いた。レオロジーとは、物がどう変形して流れるかを調べる学問のこと。この研究で2017年のイグ・ノーベル賞(物理学賞)を受賞している。

ファルダンさんの説明をざっくり言うと、こうだ。

  • 液体とは「入れ物の形に合わせて形を変えるもの」
  • 固体か液体かは、形が変わるまでにかかる時間と、観察する時間の長さを比べて決まる
  • 猫も、じゅうぶん時間があれば入れ物の形になる

この「形が変わるまでの時間」と「観察する時間」の比を、レオロジーではデボラ数と呼ぶ。比が1より大きいと固体っぽく、小さいと液体っぽくふるまう。一瞬だけ見れば猫は固体。洗面器に入ってしばらく待てば、洗面器の形の猫ができあがる。

つまり「時間をかければ、猫は液体と言えなくもない」。ふざけた問いを使って、物の性質は時間の尺度で変わる、というまじめな話をしているのである。

猫の体は、そもそもかなり柔らかい

アニコム損保の解説によると、猫の鎖骨はとても小さく、人のように肩の関節とつながっていない。そのため、頭が通るすき間なら体も通り抜けやすい。背骨も骨どうしがゆるやかにつながっていて、いろいろな方向に曲がる。

これはラグドールに限らず、猫全体の特徴だ。すき間に入り込む、丸くなる、びよーんと伸びる。猫の「液体っぽさ」の土台はここにある。つまり液体部門には、短毛の子も長毛の子も全員エントリーしている。審査は取材班には荷が重いので、全員優勝とする。

ラグドールは「長くて、毛が流れる」

じゃあなぜラグドールが特に溶けて見えるのか。品種の基準を読むと、ヒントがある。

CFAの基準では、ラグドールの体は大きくて長く、毛は中くらいから長めで、ふわふわの下毛が少なく体に沿って流れる毛質とされている。毛が体に沿って床に広がるので、輪郭がぼやけて「どこまでが猫でどこからが床か」がわかりにくい。

大きくて長い体が、流れる毛をまとって床に広がる。これで溶けて見えないほうが無理がある。ここでメインクーンやノルウェージャンの溶け姿まで探し始めたら、もう長毛沼の入り口だ。取材班はとっくに入っている。

伸びるのは、暑いから

寝相にも理由がある。アニコム損保の解説では、猫は暑いときは手足を伸ばして体の熱を逃がし、ひんやりした床におなかをつけて寝ることもある。寒いときは丸くなって熱を逃がさないようにする。

同じ解説によると、猫の耳や肉球には細い血管がたくさん通っていて、暑いときはそこが広がって体の熱を外に出す。手足を投げ出して寝るのは、放熱板を全部広げているようなものだ。ラグドールのような大きくて毛の多い猫が夏の床で広がっていたら、それは溶けているのではなく、全力で冷却中なのである。

見た目 状態 意味の目安
固体(丸い) くるっと丸まる 寒くて熱を逃がしたくない
液体(べたーっ) 手足を伸ばして床に広がる 暑い、またはかなりリラックス
要注意 ぐったりして呼びかけへの反応が鈍い 溶けているのではなく具合が悪いかも

判定

判定:誇張。ラグドールは溶けていない。持ち上げればちゃんと猫の形をしているし、重さもある(わりとずっしり)。

ただし「溶けて見える」のには筋の通った理由がある。猫はもともと体が柔らかい。ラグドールは体が長くて毛が体に沿って流れる。そして暑いときやリラックスしているときは、自分から体を広げる。さらに物理学者によれば、時間をかければ猫は液体とみなせなくもない。

なので正確には「今この瞬間は固体。ただし長期的には液体の可能性がある」だ。自分で書いていてよくわからない。

飼い主向けメモ

  • 床でべたーっと伸びているのは、暑さのサインのことがある。部屋の温度を見直すきっかけにする。夏の室温は夏の室温とエアコンの目安で整理した
  • 溶けていても、呼べば耳やしっぽが動くならだいたい大丈夫。反応が鈍い、ぐったりしている、口を開けてハアハアしている、というときは熱中症などの可能性もあるので、すぐ動物病院に相談する
  • 液体化したラグドールを持ち上げるときは、胸の下とおしりを両方支える。体が長いので、片手だと途中で「垂れる」
  • 床に広がる子ほど、わきの下やおなかの毛がこすれて毛玉になりやすい。ブラッシングの話は抜け毛・毛玉対策へ
  • 瓶や箱に入りたがるのは猫の習性。ただし出られなくなる入れ物や、ふたが閉まるものは置かないようにする

結論:ラグドールは液体ではない。ただ、ときどき床と和解しているだけだ。

取材班が見た資料

※性格や体の特徴には個体差があります。健康について気になるときは、動物病院に相談してください。

ほかの検証も読む

コラム一覧へ トップへ