週刊ラグドールラグドールは可愛いのか? 特別号

2026年9月25日発行 第1号定価:のびしろ

検証

【検証】宇宙人説・政府の実験説…ラグドール誕生秘話がカオスすぎる

2026年9月25日・週刊ラグドール取材班

ラグドールには宇宙人の遺伝子が入っているらしい。いや、政府の秘密実験で生まれたらしい。しかも痛みを感じないらしい。

どこのB級映画の設定かと思ったら、海外ではわりと本気で語られてきた話だった。取材班、UFOを探す前に品種団体の資料を読むことにした。

ウワサ

海外の猫ブログやまとめ記事で「ラグドール誕生の謎」として定番になっている話は、だいたい次の3点セット。

  • 祖先の猫が事故のあと研究所に運ばれ、政府の秘密実験で遺伝子をいじられた
  • その遺伝子には宇宙人(たまにスカンク)のものが混ざっている
  • だからラグドールはぐにゃっと脱力し、痛みを感じない

日本でも「ラグドール 起源」「ラグドール ルーツ」で検索する人はけっこういる。都市伝説としては完成度が高い。高すぎる。

取材班が調べた

生みの親はカリフォルニアの一人のブリーダー

ラグドールの始まりは1960年代のアメリカ・カリフォルニア州リバーサイド。ブリーダーのアン・ベイカーさんが、近所にいた白い長毛の猫「ジョセフィン」の子孫を交配して作った猫種だ。CFA(米国の大手猫登録団体)も、ベイカーさんがポイントカラーの遺伝子を持つ長毛の猫から作ったと説明している。

いまいるラグドールは、ジョセフィンの血を引くダディ・ウォーバックス、フギアンナ、バックウィートといった初期の猫たちにたどり着く。宇宙船は出てこない。

都市伝説の出どころは、まさかの本人

問題の「事故→研究所→遺伝子改造」の話は、実はベイカーさん自身が語っていたとされる。海外の品種解説サイトでは、秘密実験やら宇宙人やらスカンクやら、話のバリエーションがいくつも紹介されている。

なぜそんな話が広まったのか。たぶん「抱くとぬいぐるみみたいに脱力する猫」というキャッチーな売り文句に、それっぽい理由が欲しかったのだろう。名前の由来になったのもこの脱力エピソードで、話が盛られるほど猫の神秘性も上がる。宣伝としては、正直ちょっとうまい。

でも冷静に考えてほしい。1960年代に猫の遺伝子を組み換える技術はない。それに、親猫がケガをしたところで、その経験が遺伝子に書き込まれて子猫に受け継がれることもない。英国のラグドール愛好団体(TBRCC)は、脱力っぷりそのものを「誇大宣伝」とまで書いている。CFAも、抱くとぐにゃっとなる性質は今のラグドールでは典型的ではないとしている。脱力してくれるかどうかは、抱っこ嫌い問題のとおり個体差だ。

「痛みを感じない」は危ないウソ

いちばん笑えないのがこれ。TBRCCは、ラグドールの痛みの感じ方がほかの猫と違うという主張を「危険」とはっきり否定している。ラグドールもふつうの猫と同じ神経を持っていて、痛いものは痛い。

むしろ、がまん強く見える子ほど不調のサインが見えにくいこともある。「この子は痛がらない品種だから」は、飼い主がいちばん信じちゃいけないウワサだ。

ベイカーさんの囲い込みと、そこから分かれた猫たち

ベイカーさんは1971年ごろに独自の登録団体IRCAを作り、1975年には「Ragdoll」の名前を商標として登録した。繁殖する人には厳しい条件をつけたため、離れていくブリーダーも出てくる。

  • 1969年にベイカーさんから猫を買ったデイトン夫妻らが、一般の猫登録団体での公認を目指して活動
  • 英国には1981年に輸入され、GCCF(英国の猫登録団体)で1990年に公認
  • CFAでは1993年に登録が始まり、2000年にチャンピオンシップ(ショーで賞を競える段階)へ

一方、IRCAに残っていたブリーダーたちも1994年に独立。「ラグドール」の名前は使えないので、新しくラガマフィンと名乗った。ラガマフィンはその後、別の猫種として歩んでいて、見た目のルールもラグドールとは違う。ちなみにラグドールの歴史を追いかけていると、気づけばラガマフィンの写真まで眺めている。長毛の親戚が増えるのは、長毛好きにはうれしい話でしかない。見分け方は間違えられがちな猫たちで。

ウワサ 実際
政府の秘密実験で生まれた 1960年代の一般のブリーダーによる交配
宇宙人(スカンク)の遺伝子入り 当時そんな技術はない。作り話
事故で性格が変わり子に遺伝した ケガの経験は遺伝しない
痛みを感じない ほかの猫と同じく感じる
みんな抱くとぐにゃっとなる 今は典型的ではない。個体差

判定

判定:ウソ。宇宙人も政府も関係ない。ラグドールは、一人のブリーダーが近所の猫の子孫を選んで交配し、のちに多くのブリーダーが整えていった、わりと地に足のついた猫種だ。もっとも、宇宙から来ていようがいまいが、猫がかわいいことに変わりはない。

ただし「言い出しっぺが生みの親本人」という一点だけは本当なので、話がややこしくなっている。都市伝説にしては出典がしっかりしすぎているのがカオスの原因である。

飼い主向けメモ

  • 「痛みに強い品種」と思い込まない。元気や食欲がない、触ると嫌がる、歩き方がおかしいなどの変化があれば、早めに動物病院へ
  • 抱っこで脱力しないのは不良品ではない。脱力しない子もふつうにいる
  • 血統書に載っている団体名(CFA、TICAなど)を見ると、その子がどのルールで登録されたかがわかる
  • 起源の話をするときは「作り話だけど、生みの親が言ってた」までセットで話すと盛り上がる
  • 毛色の成り立ちが気になったら毛色図鑑へ

結論:ラグドールは宇宙から来ていない。ただ、ソファの上で溶けているときの顔は、たまに地球の生き物に見えない。

取材班が見た資料

※性格や体の特徴には個体差があります。健康について気になるときは、動物病院に相談してください。

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